生きるためのケーキ

メリークリスマス。とはいえ今日は平日で、普通に仕事だ。昼休みに外出すると、いつもランチタイムに行列を作っているコンビ二やチェーン店のカフェの前に赤や緑のクロスをひいてデコレーションされたテーブルが置かれ、サンタ帽をかぶった店員がチキンやクリスマスケーキを売っていた。今日はクリスマスで、世間の子どもたちにとっては特別な日なのだなと思う。

ケーキを特別な日じゃなくても食べるようになったのはいつからだろう。

物心ついた頃、ケーキを食べる日は決まっていた。誰かのお祝いや、誕生日とクリスマスだけだったと思う。クリスマスの日には、給食でもケーキが出て教室がにぎわっていた。両親は毎年誕生日には隣町の人気の洋菓子店に連れて行ってくれた。そこで好きなケーキを選ばせてくれた。子どもの頃はフルーツが嫌いで、ひたすらチョコレートケーキばかり選んでいた。食べ物の好き嫌いが激しい手のかかる子どもだったから（今も嫌いなものは多い）、両親は普段の食事のメニューさえ、いつも私の食べられないものはほとんど使わずに料理をしてくれた。

でも唯一、ケーキは例外だった。母も父も自分たちの誕生日や母の日、父の日には、ここぞばかりに私のために我慢している本当は大好きなフルーツたっぷりのタルトやショートケーキを買い帰ってきた。ケーキの上に敷き詰められたツヤツヤでぷりぷりのフルーツに何の魅力も感じられないまま、不機嫌にひとつひとつをフォークではがしては皿の上に落とし、ぶすっとした顔でクリームと生地の部分ばかりを食べていたと思う。両親たちはとても美味しそうに食べていた。でも仕方ないことはわかっていた。

ケーキは最強。ケーキは無敵。それ以上でもそれ以下でもなかった。

特別じゃない日に食べ始めたケーキは、サイゼリヤのティラミスだと思う。初めて食べたときのことは何も覚えていないけれど、中学生の頃夏休みに毎日のように友人と近所のサイゼリヤに行っては、ミラノ風ドリアと一緒に頼んでいた。中学生にとってサイゼがありがたいくらいに安かったこともあるこれど、その組み合わせが流行りであり、仲間内での定番になっていた。

高校生になってからは、定期券の範囲内で降りられる駅のドトールやスターバックスへ行くようになった。友人とおしゃべりをしたり、一人で行って勉強をするときに入った。背伸びして買ってみたコーヒーが苦くて、ケーキを追加で注文したことが何回もあった。2、3年生の頃は受験勉強の息抜きとして、もっと頻繁にカフェに行くようになっていた。おしゃれなチェーン店のカフェで食べる一人サイズの見た目も可愛い小さなケーキは、日々の癒しアイテムようなものだった。同時に、1日のうち10時間を毎日勉強を繰り返す脳に糖分を届けてリフレッシュさせる役割を果たしていた。切羽詰ってカフェに行く余裕もないときは、塾と同じビルのコンビ二で売られているケーキを買って、休憩用の飲食可能なフリースペースでそれを食べることもあった。

あの頃は、もはや生きるためのケーキだった。

大学3年生の頃から、丸の内のビルにあるドトールで2年半ほどアルバイトをしていた。働きながら、何度もケーキを買う人たちを目にした。多くの人が会社員で、たまに買い物帰りのような紙袋をたくさん持ってくる人がいた。(忘れ物の中で紙袋が一番多かった) 買い物の一休みに、会社員の息抜きにや打ち合わせのお供に、時にランチとして、ケーキは大量は消費されていった。時にやむを得ず賞味期限切れできれいなままのケーキをそのまま廃棄してしまうこともあった。それだけでなく、一口食べただけで、下げ台に置かれてしまったケーキを見たとき、最初は本当に心苦しかった。それでも働いているうちに、その心苦しさにも慣れてしまった。それがまた悲しかった。いちいち過敏になっていたら仕事にならなかった。

今、毎日ケーキを食べない理由を問われたら、特別な日のものだからというよりも先に「そんなお金はない」「太る」という答えが浮かぶ。それに、ケーキを食べなくても生きていける、そう思っていた。

ドトールバイト時代の悲しい経験もあってか、なんやかんやで食品メーカーに新卒で入社した。

入社してからわかったことなのだけれど、私が受験期にむさぼるように食べていたコンビ二のケーキは今の会社で作られたものだった。現在の部署はケーキの商品開発等に直接関わる仕事にはあまりかかわりがない。けれど、コンビニのケーキは大人気の商品で、その売り上げの一部が私の給料になっているのは事実だし、そのお金によって今の生活が成り立っている。

結局もうしばらくは、もしかしたらこれからもずっと、ケーキに生かされる人生なのかもしれない。

（写真は最近食べておいしかったチーズケーキ）