夢見草子

桜の別名を夢見草といいます。徒然なるままに休み続ける日々。

あこがれの人

島本理生さんのサイン会に行ってきた。島本理生という小説家を知ったのは、大学受験勉強中で、第一志望校の過去問の問題文だった。その小説があまりにも面白くて、その場で小説の名前もおぼえた。結果その大学には落ちたけど、受験終了後にその小説と、島本さんが書いた他の本を数冊買った。

島本さんの書くものは恋愛小説が多く、無茶苦茶な男性に翻弄される女性の姿が多く描かれている。とにかく文章が美しくて、どんなにしょうもない登場人物であってもとても魅力的に感じられる(その美しさは是非本を読んで実感してほしい)ので、ページをめくる指がとまらない。

サイン対象の最新刊の短編集『あなたの愛人の名前は』の中には、恋愛が話の軸に来ないような物語もあったのだけれど、やっぱり恋愛や男女間のままならない感情の描写が抜群だった。サイン会は白岩玄さんとのトークショーも兼ねていて、男女の思考の相違みたいなものがテーマだった。島本さん白岩さんそれぞれの意見や考えはとても芯があり、人の心をふるわす物語を作る人のもつ熱いものを感じられた。女性目線の島本さんの話は本当に共感ばかりだったし、対になるような白岩さんの男性目線の意見は何かと絶望させられたし愕然としたけれど、納得できることが多かった。二人の話はずっと楽しくて、あっという間に時間は過ぎた。

恋愛の話だけでなく、作家として、小説を書くことについても色々と語っていて、心に強く残るような言葉もたくさん聞くことができた。三月いっぱいで終わってしまう手帳に書き留め、また新しい手帳を買ったら、そこに記したいと思う。

トークショーが終わって、サインをもらう列に並んだ。こういうサインをしてもらう間だけ、作家さんと少しだけお話しすることができる。サイン会のたびに行っている作家さんは、なんと覚えてくれていたりもする。なぜ覚えているのか聞くと、名前が印象的だからと言ってもらえて、その度に親への感謝が止まらなかった。(いつか子どもを授ったら、キラキラネームではない印象的な名前にしようと思う。)

でも島本さんに会うのは今回が初めてだった。ずっと好きだったから、伝えたいことがありすぎる。どうしよう、と数日悩んだ結果、数年前に島本さんがゲストで出ていた加藤千恵さんが司会をするネット番組で、私が番組に投稿した短歌を島本さんが選んでほめていただいたことがあり、それがとんでもなく嬉しかったことを伝えようと決めた。いよいよ自分の番になり、スラスラとサインを書く島本さんに、そのことを恐る恐る伝えた。言いながら緊張しすぎて自分が作った短歌が出てこなくて焦ったけれど、なんとか思い出して伝えると、なんと覚えていてくれた。その当時、私の短歌を見てどう思い、その場にいた加藤さんとどんな感想を話したかなども絞り出すように思い出して話してくれて、嬉しさ以上に信じられなさでいっぱいだったし忘れられている覚悟はできていたし、覚えてなかったら受験のエピソードを話そうなんて思っていた。出会ったことのないきらきらした感情が溢れ、その根元が喜びであることだけは確かだった。

初めて会えたあこがれの人は、思っていたように最高で、めちゃいい女で、かつ小説じゃないところでもこちらの想像をさらりと飛び越えてくる人だった。